この記事では、巷にあふれかえっている行動経済学に関連する書籍から、入門の一つ先に進みたい・実際にどのように応用していくのかを知りたいといった方々向けに、より詳細に理論を説明している本や、実際の活用例を紹介している本を厳選して紹介します。
理論編
①セイラ―教授の行動経済学入門
The Winner's Curse: Paradoxes and Anomalies of Economic Life (English Edition)
- 作者:Thaler, Richard H.
- 発売日: 2012/06/26
- メディア: Kindle版
入門と銘打ってありますが、完全な入門者向けではありません。というのもこの本は、ノーベル賞を受賞した行動経済学者のRichard Thaler氏が、Journal of Economic Perspectivesというサーベイ論文誌に掲載した論文を集めたものだからです。とはいえ、経済学についてある程度知識のある方ならば、興味深く読める作りになっていると思います。
オークションから為替市場まで、経済理論による予測と現実とのズレ(=アノマリー)を鋭く指摘している良書です。
②行動経済学 新版
この本は(恐らく)本邦唯一の行動経済学の包括的な教科書です。伝統的な経済学から行動経済学へ"転向"した著者によって書かれており、分野の接合を念頭に置いたアプローチで書かれています。また、神経経済学とよばれる隣接分野についても解説されています。迷ったらまずはコレ。
伝統的経済学への冷静な評価と行動経済学の可能性について改めて考えたい!という方にオススメです。
③行動ゲーム理論入門 第2版
こちらは行動経済学のゲーム理論への応用に特化した教科書です。他の経済学分野と同様に、ゲーム理論もまた合理的人間像に対する批判にさらされており、行動経済学の応用に注目が集まっています。この本はそうした最新の研究をまとめたものとなっています。とくにゲーム理論に興味がある方は是非!
④実験経済学
この本は実験経済学の理論と有名な実験結果について包括的に書かれた(恐らく)本邦唯一の教科書です。行動経済学の研究の多くは実験によって行われてきたため、経済学における実験的アプローチを考える実験経済学は、行動経済学と非常に関連が深い分野です。この本では他にも、行動ゲーム理論について解説されています。
ちなみに、実験経済学の創始者とされるVernon Smith氏は2002年に行動経済学者Daniel Kahneman氏とともにノーベル賞を受賞しました。
実践編
①行動を変えるデザイン
Designing for Behavior Change: Applying Psychology and Behavioral Economics
- 作者:Wendel, Stephen
- 発売日: 2020/06/30
- メディア: ペーパーバック
行動経済学はどう使えばいいのでしょうか?その答えの一つが行動変容のデザインです。この本は心理学や行動経済学の知見を用いて、実際に人々に望ましい行動を促すためのデザイン手法を解説しています。原著の方は新版が出ています。
②行動健康経済学/医療現場の行動経済学
医療・ヘルスケアは行動経済学と非常に相性が良いと考えられている分野です。医療の世界では、患者の知識不足や意思決定バイアスが広く認知されてきたからです。
『行動健康経済学』は喫煙や肥満といった健康に関するトピックと行動経済学との関連について、ある程度専門的に解説しています。
『医療現場の行動経済学』は患者の治療に関する意思決定支援や、行動変容に関する最新の研究結果などについて、一般の方向けや医療従事者向けに分かりやすく解説しています。
③WORK DESIGN
What Works: Gender Equality by Design (English Edition)
- 作者:Bohnet, Iris
- 発売日: 2016/03/08
- メディア: Kindle版
労働市場における多様性は、現代では非常に重要な経営課題になっています。この本は、ジェンダー・人種・正規/非正規の格差を行動科学を用いて解決していく方法について書かれています。こうしたトピックは、ともすれば主観や感情論に左右されがちですが、著者はデータ・実験・標識(Data・Experiment・SIGNpost)をテーマとして、客観的に事実と施策を評価していく事の大切さを教えてくれます。
④行動経済学の現在と未来
医療、マーケティング、ファイナンス、結婚、労働といった幅広いトピックにおける行動経済学の応用について、実際の事例や新たな方法の提案、そして今後の展望について書かれた本です。それぞれ独立しているので、自分の興味のあるトピックをつまんでみるのも良いと思います。
おわりに
行動経済学への関心の高まりとともに、日本でも非常に多くの書籍が出版されましたが、結果として玉石混交のような状態になってしまいました。
この記事が行動経済学の正しい理解とその使い方を知る助けとなれば幸いです。
ここまで読んで頂きありがとうございました!