エコノミック・ノート

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【書評】佐々木敦 ニッポンの思想 増補新版

 

 

オススメ度 ☆☆

 

80年代に流行したニューアカから始まったとされる、ニッポンの"思想"の一連の流れをざっくりと解説している書籍。タイトルとは裏腹に、本書で実際に扱われているのは狭義の"批評"と呼ばれるものの系譜である。

2009年に刊行された同名の新書に、著者がテン年代と呼ぶ2010年代以降の"批評"の流れが増補されている。元々新書という事もあり、かなり読みやすい文体で書かれている。約400頁とまぁまぁのボリュームがあるが、(私のような)ズブの素人でもすらすらと読み通せてしまうであろう。

本書の冒頭にある、内容を伴わない(?)パフォーマンス性、まるでシーソーのように堂々巡りする変遷の過程、商品として流通するようになった"思想"、といった筆者による"批評"の特徴付けは、やや冷ややかながらも見事である。

過去の資料や事実、そして原文を多く提示している労作である一方で、著者の主観的記述も散見される。ざっと眺めるだけでも、「〜だと思います。」で終わる文がやたらと多い事に気が付くであろう。実際、これは著者も認めるところであり、プロローグには「客観的な通史であろうとするよりも、…筆者自身が直に受け取り得た限りでの…「歴史」を…描き出して」みる試みとある(p.10)。

他書と比較して、扱われる"思想家"は限定的である。例えば山口尚『日本哲学の最前線』では、現代日本の哲学研究者/思想家として國分功一郎、青山拓央、千葉雅也、伊藤亜紗、古田徹也、苫野一徳の6名を扱っている。そのうち本書で扱われているのは國分功一郎、千葉雅也の2名のみである。何故このようになっているのかと言えば、著者が狭義の"批評"の系譜の担い手と認めるのがこの2人のみだからであろう。この点からも、本書が広義のニッポンの"思想"ではなく狭義の"批評"について書かれたものである事が分かる。

したがって、広義の日本の"思想"を体系的にインプットしたいという方にはオススメ出来ない。また、狭義の日本の"批評"にどっぷりと浸かりたいという方にもあまりオススメ出来ない。あとがきにある通り「本書は一種の「入門」」(p.397)という位置付けであり、それ故に各批評家についてはごく表面的な解説しか与えられておらず、それすらも著者による独自の解釈を通したものとなっているからである(無論、興味深い指摘はあるが)。

この本に最も適している読者は、「かつて流行に乗って現代思想にチャレンジしたが当時は挫折してしまった。果たしてあれらは何であったのか、もう一度だけチャレンジしてみたい」という懐古的な層、あるいは「ニューアカやら批評やら良く知らないが、どうやら昔は流行っていたらしい。正直深入りするほどの興味は全く無いが、一応なんとなく位は知っておくべきか」といった(私のように)不真面目な層であろう。実際そのようなニーズは一定程度あると思われ、本書はそうしたニーズを十分に満たしていると思われる。あまり気を張らずにさくっと読むのが良いだろう。