エコノミック・ノート

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【書評】千葉雅也 現代思想入門 part2

 

valeria-aikat.hatenablog.com


書評にpart2もクソもあるかとは思うのだが、上の記事を書いた後、少し気になる事があったので補足する。

このブログで書評を載せた2日後に著者のTwitterで以下のようなツイートがあった。

 

このブログで書いた書評は、実は全く同じものをAmazonレビューにも載せている。この著者がTwitter上では常にエゴサーチをしているという事もあって、これを見た私は直感的に、これらはもしかすると私のレビューを見た感想ではないかと感じた(自意識過剰だったら本当にごめんなさい)

もしこれらが私のレビューへの感想であれば、はなはだ残念というか、ガッカリに思う。主旨を読みとってくれていないからである。

↑のレビューを読んで頂ければお分かりいただけると思うが、私のレビューの主旨はまとめると以下の通りだ。

この本は「ここで紹介されている思想から得られる具体的な帰結は何か?」という事を十分に示せていない。本来、ポスト構造主義の思想に従うのであれば、抽象的な思想(=直接・パロール的なもの)と同じかそれ以上に、具体的な細部(=間接・エクリチュール的なもの)や、その相互の繫がりをつぶさに探究すべきではないのか。一般向けの仕事としては、その内容を理解する事の効用まで含めて具体的に提示し、説得力を持たせて欲しいと感じる。これは、抽象的な思想を実際にどの範囲で使用すべきかという倫理の問題でもある。

 

私としては、「抽象的な構造をしっかり示」すのは"当たり前"で、その上で具体的な細部やそれらの繫がりを深く吟味すべきではないのか、という事を書いたつもりだった(同じかそれ以上に、という部分にそのニュアンスを含ませた)。

したがって、ただ「具体例をたくさん挙げ」てほしいと言っているわけではない。極端な話、一つの具体例でもいいから抽象的な思想との繋がりを深く吟味してほしい、というのが本来の主旨である。そうした過程を経て初めて見えてくる抽象的構造の本質もあるんじゃないか、と思うからだ(実際、そうした具体例は数学では良くある。そうした具体例を見つけるにはセンスが問われるのだが)。

加えて、そうした姿勢が著者の紹介する「二項対立を脱構築する」という、ポスト構造主義の思想ともマッチするではないか、という所まで一つ踏み込んで書いたつもりだ。ところが著者はツイートでは、抽象-具体の二項対立において、抽象をほぼ一方的に評価するかのような物言いをしている。著者のフォロワー達も概ねこれに賛同している事に驚きである。

最後に、「抽象的な思想を実際にどの範囲で使用すべきかという倫理の問題」についてだが、これは私個人の社会科学的関心からの問題意識だ。率直に言って、理論を具体的な問題に応用するのは、決して簡単ではないし、自由にやっていいものでもない。実際、経済学の理論を下手に使って、実際の社会問題についておかしな結論を出す人を私は山ほど見てきた。ただ「具体例をたくさん挙げ」るという雑な仕事ではなくて、抽象と具体を結びつけるという繊細な仕事を"プロとして"見せて欲しかったのだが、この本にはそれが無かった、という事を伝えたかったのである。