2020年のいわゆるノーベル経済学賞は2人のゲーム理論家、Paul Milgrom氏とRobert Wilson氏に与えられました!
受賞理由は「オークション理論の発展と新しいオークション形式の発明」との事です。
オークション理論は、ゲーム理論の重要な応用先として、また理論が実際の政策に応用された成功例として、様々な書籍で取り上げられています。
今回はそのオークション理論について、そのエッセンスを紹介していきます。
なぜオークションが重要なのか?
経済学と市場は切っても切り離せない関係にあります。
経済学の古くからの主要なテーマは「価格はどのように決まるか」と「どのように適切な配分が達成されるか」の2つでした。
それに対する経済学の答えは、価格は需要と供給に基づいて市場の持つ「見えざる手」の働きによって決まり、その価格に基づいて効率的な配分が達成されるというもので、これが最も基礎的な価格理論・市場均衡理論の命題でした。
(※現在ではここまで単純な考え方は受け入れられていません。市場をゲーム理論の観点からより詳しく解説した記事はこちら!→)
ところが、価格は市場で決まっているんだ!と言われても、いまいちピンとこない方は多いのではないでしょうか。市場とは掴み所のない抽象的なもので、身近に感じにくいものです。
オークションは、価格と買い手を決めるために行われます。
オークションは実際の会場でもネットオークションでも、入札は人々の目の前で行われ、人々の目の前で最終的な価格と買い手が決まります。
つまり、オークションは目に見える市場です。
市場とはなかなか掴み所のない抽象的なもので、身近に感じにくいものです。
しかし、オークションはそうした抽象的な市場が、現実世界に具現化した数少ない現象です。
オークションを分析する事は一つの市場を分析する事と同じであり、その特徴をとらえる事は、実際の市場の特徴・制度設計の難しさを知るためにも非常に重要なテーマとなります。
望ましいオークション設計とは
貴方がオークション主催者として、ゴッホの絵画を売る事になったとしましょう。
さて、貴方はどのようなオークションを開催するでしょうか?
真っ先に浮かんだ答えは恐らく「手を挙げた人がどんどん入札を行い、一番高い入札をした人がその額で落札する」というものではないでしょうか。
これは「競り上げオークション」、もしくは「イングリッシュ・オークション」と呼ばれるもので、最も一般的なオークションルールです。
しかし、オークションルールは競り上げオークションに限りません。例えば、逆に高い値段から徐々に下げていく「競り下げオークション」、全員が相手の入札額を見ないままいっぺんに入札額を決める「封印入札オークション」、売り手と買い手が同時に価格を提示する「ダブルオークション」などがあります。
ここでの疑問は、「どのようなオークションルールが望ましいか」という事です。
望ましさの基準としては主に、入札者の観点では「自分の商品評価額をそのまま入札する事が適切な戦略か」、また主催者の観点では「期待できる収益が最大化されているか」などがあります。
実は、全員が相手の入札額を見ないままいっぺんに入札額を決め、最も入札額が高い人が、二番目に高い入札額で落札する「第二価格・封印入札オークション」では、それぞれの入札者が自分の商品評価をそのまま入札する事が最適な戦略である事が知られています。
また、オークションをする際に留保価格(=落札価格の下限)を適切に設定する事で、オークション主催者の期待収益を最大化する事が出来る事が知られています。
オークション理論の発展により、実際のオークションにおいて「適切なオークションルールを設計する」という新たな視点が生まれました。
オークション理論は現在、経済理論の知見を用いて現実の市場を設計する「マーケットデザイン」と呼ばれる分野の一分野として位置づけられています。
(オークション以外のマーケットデザイン研究についてのより詳しい解説はこちら!→)
周波数オークション
最後に、オークション理論が実際のオークションルールの設計に用いられたケースを紹介します。
テレビやラジオ、無線などの周波数は数が限られているため、希少です。希少なものをどのように配分するかは経済学の問題です。
(日本を除く)OECD各国では、周波数の割り当てを政府主導のオークションで行っています。
これは理論的には複数財のオークションであり、Milgrom氏がその理論のパイオニアとして開拓してきた分野です。
今回受賞したMilgrom氏とWilson氏は、アメリカで周波数オークションが行われた際に、ルール設計に関する助言者として主導的な役割を果たしました。
周波数オークションを適切に設計する事で、割り当てを効率的に行えるとともに、オークション主催者である政府は大きな収益を得ることが出来ます。
これは、政府の重要な収入源として機能する可能性があり、財政難に苦しむ日本でも導入が期待されています。
ビジネスへの応用の期待
日本では、近年オークション設計を専門に行うベンチャー企業が増えています。
株式会社Dolphinsは「Auction Lab」を立ち上げ、慶応義塾大学経済学部教授の坂井豊貴氏とともに様々なアウトリーチイベントを開催しています。
また、東京大学は元スタンフォード大学教授の小島武仁氏を中心に「東京大学マーケットデザインセンター」を立ち上げ、オークション設計を含めた市場設計プロジェクトを進めています。
経済理論の社会実装を通して、より良い社会を実現していくプロジェクトに熱い期待が持たれています(主に私が持っています)。
おわりに
今回はオークション理論について、ざっと紹介してみました。
ここではごく簡単な紹介にとどめましたが、さらに詳しく知りたい方は、以下の大阪大学准教授の安田洋祐氏の記事がオススメです。
これを機に、ゲーム理論やオークション理論に興味を持たれる方が少しでも増えれば幸いです。
ここまで読んで頂きありがとうございました!